■映像詩人ユーリー・ノルシュテイン

ロシアへ行ったらテレビに注目!

ノルシュテイン、CMに挑む。

If you go to Russia, be sure to watch TV. You must see Norshtein's first TV commercial.



カリコリ、ボリボリ・・・ロシアの角砂糖は石のようにカタいって知ってましたか?
〈ロシア砂糖〉のロゴマークのライオンを主役に、これこそ正真正銘、ノルシュテインの最新作。久々のユーモア・タッチが嬉しい!

‘Crunch, crunch!’ ...With the lion from the “Russian Sugar” logo in the lead role, this is Norshtein's latest production, and the real thing - featuring a delightful touch of humor that we have not seen in a long time.


CM『ロシア砂糖』と
ノルシュテインが「外套」にこだわるわけ

おかだえみこ

Norshtein Making Commercials Allows Him to Continue Working on "Greatcoat"

 95年秋、私たちはノルシュテインを日本に迎え、彼の肉声を聞き、講演に耳を傾け、ワークショップにドキドキと参加し、「外套」の完成部分に息をつめて見入り、そして最新作のCM《ロシア砂糖》を見た。まさにこれこそ待って待って待ちぬいていたノルシュテインの最新作である。ロゴマークのライオンが主役の角砂糖の30秒CM三本。「好きなようにやらせてくれるなら」と条件つきで、制作期間は一本約二ヶ月、制作費一万ドル。
 切り紙のライオンがテーブルについて紅茶のカップに角砂糖を入れ、ひと口飲んで「うまあい!」という顔をするバージョン。
 サーカスのライオンが、スポットをあびて登場し、ドラムの連打の中、おもむろにアーンと開いた口の中に角砂糖の壷を入れて閉じ、また開けて取り出して見せるバージョン。本物のサーカスで、ドラムがドロドロと鳴り渡り、ライオンの大きく開けた口の中へ猛獣使いが自分の頭を突っ込んで見せる、命がけの離れ業をパロったもの。
 親子のライオンが庭で大鍋に小粒の果物をどっさり入れ、ジャムを煮ている。子ライオンが角砂糖を少しくすねて口に入れ、叱られるバージョン。これが〈冬編〉で、続く〈新年編〉はダビング中ということだった。角砂糖をガリガリかじる音がオーバーに思えるが、ロシアの角砂糖は氷砂糖より堅いらしい(いっぺん口に入れた砂糖をまた出して、という演出は我々いささかたじろぐ)。国内ではたいへん好評で、ウクライナのCMコンテストで一位に選ばれたそうだ。
 ロシアが市場経済に方向転換してまだ日が浅い。CMを見るのも作るのもはじめて、という人々の必死の手探り制作だろう。慣れない、わからないのにやらなきゃならない点は昭和30年代はじめの日本のCM界と似たりよったり。「視聴者の口の中へ商品を押し込むようなものが多い」という彼の言葉もうなずける。誇大広告も多く、豊田商事より凄いノンバンクCMの大攻勢にコロリひっかかって大変な被害が出たニュースは記憶に新しい。視聴者もまだスレていないのだ。CMの成熟はこれからで、彼の明るいCMは大歓迎だ。
 ご承知のように、旧ソビエトではすべての映画、すべてのアニメが国営スタジオで制作され、アニメ作品の権利は旧〈連邦動画スタジオ〉にあった。ところが、二年ほど前、旧〈連邦動画スタジオ〉の所長が持ってるアニメ全部、約三千本の権利をアメリカのさる業者に売り渡してしまった。その業者は単に教育用アニメの質のよいソフトが大量にほしかっただけらしいが(事実、完全に教育用ジャンルの短編が実にたくさんある)全作品売られてはたまったものではない。ヒートルークもカチャーノフもノルシュテインもひと山いくらで持って行かれてしまった。
 それじゃ今後、旧ソビエトのよいアニメを見たい場合はどうなるのか。ネガだけはまだしっかり旧スタジオに保管管理されているので、新しいプリントを焼いてもらうことはでき、それを映画祭などで上映するのは自由だが、興行の場合はそのアメリカの業者の許可をもらい、そちらと料金交渉を、というなんとも面倒なことになってしまった。
 それはあくまで旧スタジオに収まったアニメ、つまり完成作品についてなので、幸か不幸か未完成の「外套」は売り渡されることもなく、権利はノルシュテインに残っている。
彼が歯を食いしばっても完成したいと望む理由は、CM以外にはこれが彼の自由にできる唯一のアニメ作品だからなのだ。彼はとにかくもう少し撮り足して「外套・第一部」をまとめ、それを映画祭に出品するなり、上映会を開くなり、またプリントやビデオ化して自分の資金をかせぐなり、したいのだ。
 そして今、撮影は再開された。小さいながら、スタジオと撮影台とカメラが揃い、例によってどれが何の部分やら全くわからないパーツをずらり並べ、移動撮影用の背景も用意して……アカーキー・アカーキェヴィッチはふたたび動きはじめた。十年を超す時をへだてて、フィルムの中の時間が、あの冬の夜の続きの時間が、もう一度流れはじめた……。
 これまで、援助の話が皆無だったわけではない。資金提供の申し出は複数あったが、実現しなかった。話が壊れたのではなく、大金の匂いに寄って来るタチの悪い人間たちに対して、ノルシュテインがあまりにも無垢、無防備だった、としか言えない。
 CMの仕事はいわば日銭が稼げる。自主作品の資金調達には最適だ。CMのコンテストはフランスにもイタリアにもある。賞金稼ぎは恥でもなんでもない。積極的に参加を!
 前途はまだまだ大変だけど、87年初来日の時の、はげます以外何もできない、というあの絶望感はもう無い。ふゅーじょんぷろだくとで彼の原画をリトグラフにする計画があるが、この外にも支援方法は考えられる。知恵やお金を出し合って「外套・第一部」の制作を支え、その完成を共に待ちたいと思う。